※本記事は、すぱんくtheはにー「一週遅れの映画評:『シン・ウルトラマン』つまらないから、絶望する。」を一部加筆・修正のうえ、転載したものです。なお『シン・ウルトラマン』(2022)の結末についての情報が含まれます。
文:すぱんくtheはにー
もうね、エンディングに到達したときにはぽろっぽろ泣いてて、水分を吸ったマスクが張り付いて酸欠起こしそうになりながら思ったんですよね、「これ、あんまりだな……」って。
ちゃんと理屈が通ってる
すごい好きなところはあるんですよ。例えばあの高速縦回転ね、あの初代『ウルトラマン』(1966)でたびたび出てきたアレにきちんと理由付けをしている……スペシウムで重力操作してるから人類には理解不可能な挙動で飛行する → おそらくあの奇妙な直立回転がもっとも効果的なんだろう、みたいな理屈があるっぽいし、それで納得させられる映像になってるところとか。
あと匂いで追跡できるところも「なるほど相手は異星人だから感覚器官が違っていて、おそらく匂いがあるという概念が薄い(理屈としては地球人を知る過程で把握していても、それに対応する必要性まで思い至らない)から、そこがセキュリティホールになるんだろうな」ってなんとなく想像できる。そこから異星人が地球の居酒屋で食事をしているシーンを考えると、そもそも嗅覚がないか、少なくとも人間とは違うっぽいから、この食事に対して本当はあんまりおいしいと思ってないんじゃないのか? そういえばコイツ「私の好きな言葉です」とか言うけど、好悪を示すのって「言葉(意味)」に対してだけだな……やっぱり感覚器官が人間とは全然違うんだ、仲良くなれんなコイツとは! ってちゃんと理論立てて思わせてくれるところも、好き。
そう、それで思ったんだけど、この「私の好きな言葉です」もめちゃくちゃ胡散臭くて。あっちから見ると「未開の地」にいる、いちおうコミュニケーションはとれそうだけどウルトラ文明レベルが低い(と内心思ってる)連中に対して「あなたたちの言語とか文化を理解してますよ〜、ほらこういうのでしょ〜、へらへら」みたいな。あれじゃん、ああいうことわざとか慣用句を座右の銘にすることはあっても、いちいち「これ好き」とか「あれ嫌い」とかあんま言わないじゃない? だからあの態度って、こっちをすげー程度の低い相手と見なしていて「こうやって表面上の理解を示せば十分」みたいに思ってるということなんですよ。
この感じ、なんか覚えがあると思ったらあれだ、爆笑問題の太田光が『ゆるゆり』(2011–)のTシャツ着てる人に「それラブライブだろ!」って言うやつあるじゃん。それで苦笑いしながら「そうです」って言うときの、あれを見たときの気持ちにすごく近い。あの表面上は友好的なんだけど絶対相容れないことが確信できてしまう、あれと同じ枠の気持ち。
そういう部分……『ウルトラマン』をいまやるにあたって初代に足りなかった部分とか、もっと深く掘り下げられそうな部分を、しっかり背景まで設定して作り上げてるところはめちゃくちゃ好きなんですよ、「おお、これぞ空想特撮だ!」って感じで。イメージや想像、つまり空想を実物として、撮影できる形で出力するっていうプロセスがとても良いと思うんです。
理系オタク、萌え
あとですね、超好きなところは滝くんが……「非粒子物理学者」だっけ? あの禍特隊の若いオタクの人、あの人の描写がすごく良いんですよ! 終盤、ゼットンという脅威にウルトラマンですら敵わなくて「もうどうしようもないわ」みたいな感じで自暴自棄になってる、そこに「絶望してるより希望を持ってるほうが楽しいわよ」って言われるんですけど……きっとね、彼にとっては逆なんですよ。たぶん学者として「楽しいから希望が持てる」んだと思うんです。で、そうやって「楽しい」なら、おそらく世界がどうなろうが、ゼットンの1兆度火球で地球ごと焼却されようが仕方ない、くらいのことは思ってるんじゃないかな? と。
どういうことかって言うと、学者として、というか真理の探求者として「わからなさそうだけど、糸口だけは見えてる」とか「ここまではわかるけど、ここからはわからない(から思考する)」とかっていう状況なら、彼は生き生きとしていられるわけですよね。実際、ウルトラマンから送られたベータカプセルのヒントを手にした瞬間、それで本当に理解できるのか、できたとして何とかなるのかわからないけど、もうノリノリで研究をはじめちゃう。その瞬間、彼は絶対に「楽しい」って思ってる。その結果が絶望になろうが希望になろうがどーでもいい、というか滝くんにとっては「楽しい」ことこそが希望になりうるわけですよ。
そう考えて映画前半の滝くんの言動を見ると、出てきた禍威獣に対して「打つ手がない」「終わりだ」「どうしようもない」とかずっと言ってる、なのに手を動かしたり考えたりすることを決してやめようとしない。禍威獣を相手にして本当に手も足も出ないとしても、もしかしたらなんとかなるかもしれない。今まで人類が積み重ねてきた知恵とかこれまでの経験が「方法を考えるだけの余地」を与えてくれる(しかも思いついた方法を、多少の無茶があっても実行して試せる!)。研究者にとってこれほど楽しいことって、たぶんないんですよね。その結果、どうしようもなくなって死んじゃっても別にいいんだと思う、彼は。
だからその逆に、観測データも全然参考にならない、法則を明らかにする糸口すら見つからない、しかもそれがまったく未知の現象ってわけじゃなくて、どこかの異星人は完璧に理解している既知の技術らしい……これって滝くんにとっては死ぬほどつまんないわけですよ。で、つまんない “から” 絶望する。も〜〜っ、こんなのめちゃくちゃ理系のオタクじゃん! 好き、私、滝くんのこのメンタリティ、大好き。
“バグ” による相互理解
でね、ウルトラマンも「人ピのこと、しゅきぃ……」ってなるわけですよね。いや、私のしゅきとは違うんだけど、いま話をつなげるために無理矢理ブリッジさせたんだけどさw
私は全然違うものに対して一方的に好感度がカンストするのを見てるとたまんなくなって、例えばルンバ、あのお掃除ロボットのルンバね。人間はただの掃除機であるルンバに対して、一緒に生活しているうちにペットみたいな愛着を抱いてしまう、みたいな話を聞くわけですよ。壊れたルンバを修理してほしい、新しいのを買ったほうが安くて性能も良いことは理解しているのに、それでも “治し” てほしいという。
あるいは戦場で使われる無人機とか軍用ロボットに対して、それが破壊されたときに回収や修理を切望する軍人の話とか……私たちはそういう逸話を聞いて「ああ、たしかにそういう気持ちになるのかもな」って、理解できちゃったりするわけですよ。
生きているわけじゃないものに対して生命っぽさを感じたり、人間以外の生き物に「人格のようなもの」を見出したりしてしまう、そういう人間の持ってる「精神のバグ」が私は大好きで。それって突き詰めると、私たちは人格っていうものが本当に存在するかどうか絶対に確証は持てない、持てないけど他人には人格というものがあると信じて、誰かのことを愛するわけですよね。信じるしかない。そういう人間のバグが私には心の底から愛おしいんですよ。
で、ウルトラマンの「人類のことしゅきしゅき」も「それ」なんですよ。人間を理解したいけど、やっぱり全部は理解できない。だって生き物としての根本が違うからね(それこそ人間とルンバぐらいには違う)。にもかかわらずそこに「愛するに値するものがあると、信じる」をやっちゃった結果が「人ピ、しゅきぃ……」なわけで。これはもう人間とウルトラマンが同じバグを抱えてるってことで、だからこそ逆説的に、“バグによる相互理解” の可能性が立ち上がってくる。
そしてゾフィーは(ここはゾーフィのほうがいいのかな?)その可能性を一歩離れた立場から信じるわけですよ。こんなんめちゃくちゃ感動するに決まってるじゃん! だってここには愛と信頼しかないんだから!
でもね。
でもそれって、初代『ウルトラマン』と同じなんですよ。『シン・ウルトラマン』固有の話なんじゃなくて、原典である『ウルトラマン』でもうやってることで。「原典なんだから当たり前だろ」とは思うんだけど……ただその、これは私の好みとして「新しいもの」が欲しいわけですよ、新しいことにいちばんの価値を見出してるわけ。そういう観点からすれば『シン・ウルトラマン』の結末って、なんも新しくはないんですよね。
だから私はすっごく楽しんだし、面白かったし、めちゃくちゃ感動した。だけど、それだけど、私がもっとも重要だと思ってる部分は満たされなかった。だから感動で号泣しながら「これ、あんまりだな……」って感想になっちゃうんですよ。初代『ウルトラマン』を見てない人は、もちろん新鮮な気持ちで楽しめると思うけど。
素晴らしい作品なのは間違いない。だけど、新しいものを提示してるわけじゃないから、見る価値は(私にとっては、でしかないけど)あんまりない。
「めちゃくちゃ面白かった! 別に見ても見なくてもいい!」──字面だけだと、そんなわけのわからない結論になる作品でした。だから『シン・ウルトラマン』、おすすめではないです。でも見たら絶対損はしない! そんな評価です。なんですかね、この「心がふたつある~~~」みたいな結論……ひとつの体に神永新二とウルトラマンがいたように、この映画評にもふたつの答えがあっていいんですよ!
清濁併せ吞む、私の好きな言葉です。
著者
すぱんくtheはにー Spank “the Honey”
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